HOPPYの仲間たち|~ジムで見つけた僕の居場所~
第4話「あのバトンが、いまも落ちたままなんだ」
「ルルさんって、ほんとにストイックだよねぇ」
モッティが言うと、ボニーがうんうんとうなずいた。
「トレーニング中に声かけたら、ガチで見えないふりされるブー」
ふたりの視線の先で、ルルはひとりスクワットを繰り返していた。
汗をかいても顔色ひとつ変えず、誰にもペースを乱されることなく。
でもルルは、知ってる。
誰にも気づかれずにいるほうが、ずっと楽なことも。
高校のころ、陸上をやっていた。短距離と高跳び。
背は小さかったけど、脚力にはちょっと自信があった。
だから――リレーのアンカーを任された。
あの日、最後のバトンを落としたのは自分だった。
すべてが止まって見えた。
時間も、仲間の声も、自分の脚も。

「…それから、走るのやめたんだよね」
スクワットで追い込むたび、あの時の悔しさが脚に宿る。
プルプル震えるのは、筋肉のせいだけじゃない。
(いや、筋肉のせいでもあるけど…)
「今日も、バトンは拾えてないかもな」
ルルは笑った。誰にも聞こえないように。
でも――その笑顔の奥で、何かが少しずつ動き始めている。
その日のトレーニングを終えたあと、ルルは静かに帰ろうとした。
ふと振り返ると、ジムの片隅でモッティがストレッチしていた。
初めてスクワットをしたあの日から、なんだかんだで来てるみたいだ。
ルルは少しだけ足を止めた。

「……いいスクワットしてたよ」
その言葉にモッティはびっくりして顔をあげた。
ルルはそれ以上なにも言わず、外に出た。
夜の風が、ふくらはぎをすっとなでた。
あのころ感じた風とは、少し違った。
今日のひとこと
「悔しさは、脚に残る。スクワットのたびに、あの日が近づく。」
次回 第5話 「話すって、こわい。でもちょっとだけ、楽になる」