札幌の小さな筋トレジム「HOPPY」。ここはただの運動施設ではない。仕事に疲れた者、夢を諦めた者、家庭を失った者──誰もがもう一度自分を取り戻す場所だ。トレーナーの岡田は、無理をさせず、個々の心にそっと寄り添う。相談役のフクロカは、静かに見守りながら、会員たちの揺れる心に寄り添う。モッティ、ルル、ボニーら仲間たちは、それぞれの過去と向き合いながら、少しずつ変わっていく。ここで働くとは、生きるとは何か。人を支えるとはどういうことか──。筋トレを通して交差する人々の再生と絆の物語。やがて現れるライバルジム「IRON HELL」との激しい価値観の衝突。かつての仲間が去り、新たな葛藤が生まれる中でも、彼らは諦めず向き合う。
主要キャラクター
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岡田(おかだ)氏
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人間/トレーナー
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HOPPY代表。指導哲学の中心人物。
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フクロカ
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動物:フクロウ
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HOPPYの相談役・語り手。ジム全体をやさしく見守る存在。
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ルル
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動物:シカ
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HOPPY会員。元陸上競技選手でリレー挫折の傷を抱える。
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モッティ
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動物:マーモット
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HOPPY会員。こももの兄で、妹を支えつつジムを続ける。
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ボニー
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動物:ブタ
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HOPPY会員。娘ベニーとの思い出を胸に抱え、再生を目指す。
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第二章~第五章で登場するキャラクター
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ゴリラーマン
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動物:ゴリラ
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最初はIRON HELLのアシスタントコーチ
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クロノスを尊敬しつつも、結果至上主義には疑問を抱く。豪快かつ温かみのある指導者。
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こもも
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動物:マーモットのこども
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モッティの妹。モデルの梅島ななこを「ママ」と呼び憧れていた(実母ではない)。
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素直で純粋な小学生。
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ベニー
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動物:ブタのこども(小さな子ブタ)
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ボニーの娘。
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ボニーの元妻 チッチ
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動物:ブタの中年女性
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ベニーの母親。
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優しくも厳しさを持つ母親の佇まい。
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クロノス
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動物:コブラ
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結果至上主義を掲げる指導者。ルル、ゴリラーマンに影響を与える。
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厳しくもカリスマ性のある人物。岡田氏とは指導方針で対立する。
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梅島なな子
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人間:みんなのあこがれ芸能人。元アイドル、現在フィットネスインフルエンサー。BIG3でスタイル抜群のYouTubeの発信者
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第一章 揺れる心 再生の朝
第1話「ジムの朝と三人の揺れる心」
午前8時15分。
HOPPYの大きな窓ガラスから、やわらかい朝の光が差し込んでいる。床は木目のフローリングで、重い鉄のダンベルやバーベルが並ぶラックが壁沿いにずらりと並んでいる。壁には「MUSCLE TRAINING CLUB HOPPY」のロゴや、筋トレのポスターが鮮やかに貼られている。空気は少しひんやりしていて、木の柱がわずかにきしむ音がかすかに響いている。
ジムの奥、ひときわ静かな場所に3人の会員がいる。手前のバーを握る人物は──
ルルは背が高く、まるで鹿(しか)のように細長い体つきをしている。肩から首にかけて茶色の毛がうっすら生えており、頭の両側にはかっこいい角がにょきりと伸びている。今日は黒いタンクトップにグレーのショートパンツを履き、両手でバーベルのシャフト(棒)をしっかり握りしめている。背中がわずかに丸まっており、胸の前でバーベルを支えようとするたびに、額に汗が浮かび、角が小さく揺れる。息を小刻みに吸い込むたびに背筋が震えている。
その隣には、モッティがマットの上に座り込んでいる。体は丸く、まるでマーモットのような(※??)淡い茶色をしており、頬にはぽってりとした丸みがある。つぶらな黒い瞳で床を見つめながら、青い半袖シャツと紺の長ズボン姿。靴紐をほどいては結び直す手つきは、どこか不安げだ。指先は震えており、小声で「今日も、うまくできるかな……」とつぶやいている。その視線は遠くのポスターに向かい、まるで心のどこかで「失敗したくない」という気持ちを抱えているように見える。
さらに奥のベンチには、ボニーが座っている。淡いピンク色の肌に、丸い鼻としっとりした頬が愛らしいが、その表情には哀愁がにじむ。今日は黒いタンクトップにグレーのショートパンツを身に着け、額には黄色いタオルを当てて汗を拭いている。タオルをぎゅっと握る手には、まだ家庭の重みが残っているようで、彼は小さく背を丸めてうつむき、目だけをそっと伏せている。その姿勢からは、孤独が伝わってくる。
そのとき、ジムの奥からかすかに、柔らかい羽ばたきの音がした。ふんわりと広がる茶色い羽根が、静かに机と椅子の置かれた一角に姿を現す。大きな丸い瞳はゆったりと穏やかに開かれ、三人の会員をやさしく見つめている。その姿はまるで、森の奥からそっと寄り添うようなふくろうそのもの。フクロカは羽を軽く揺らしながら、一言も発せずにジムの全体を優しく見守っている。
そのとき、扉の向こうからしっかりとした足音が近づいてきた。扉がゆっくりと開き、背筋を伸ばした男性が一歩踏み出す。彼が──トレーナー岡田だ。髪は黒く短く整えられ、白いトレーニングシャツに黒いスウェットパンツを着ている。筋肉質な腕と胸からは、学校では学べない“鍛え抜いた体”の説得力があふれている。顔立ちはきりっとしていて、目に映る優しさと強さは、誰にでもすぐ分かる。
岡田氏は大きく深呼吸し、胸に手を当てると、やわらかく微笑んで口を開いた。
「おはようございます、みなさん」
ルルはバーベルを握ったまま一瞬顔を上げ、眉間に寄せたしわをすっと緩める。モッティは靴紐を結ぶ手を止めて少し背すじを伸ばし、じっと岡田氏の方を見据えた。ボニーはタオルを額からおろして、疲れた目で彼を見返す。そのとき、フクロカは大きな瞳で静かに見守り、記録ノートのページをそっとめくった。
岡田氏は窓の外をちらりと眺め、再びみんなの方を向いて落ち着いた声で言った。
「さて、今日はね、『自分を許す』って話から始めようか。ルル、バーベルを胸の前まで──」
ルルは床を見つめたままわずかにうなずき、ゆっくりとバーベルを持ち上げた。腕から肩にかけてうっすらと震えが走るが、額の汗が朝の光にきらりと光った。その姿からは、「怖い。でも逃げない」という強い意志が感じられた。
その横で、ボニーがタオルを握りしめたまま小声でつぶやいた。
「岡田さんの言葉はいつもシンプルだけど……なんだか心が軽くなる気がするよ」
フクロカは、静かにノートを開き直し、心の中でつぶやいた。
――ここはただの筋トレジムではない。
ここだからこそ生まれる物語が、すでに動き出している。
その声はかすかに胸を揺さぶり、これから始まる一日の幕開けを優しく告げていた。