札幌中央区のセミパーソナルジム
hoppy_logo_header

札幌中央区のセミパーソナルジム

筋トレ倶楽部Hoppy

ようこそHOPPYジムへ ──その扉の奥には、物語がある 2-2

Hoppyの物語

2026年3月8日

第2話「モッティの試練~“ちゃんとしてる”が重すぎて~」

「兄ちゃん、ちゃんと帰ってくるよね?」

その言葉が、ふとした瞬間に胸の奥を刺す。
こももの声は、やさしくて、素直で、まっすぐだ。
だからこそ、怖い。
あの子はいつだって、“兄ちゃんは絶対だ”と思っている。

モッティは役所の一角で書類を閉じ、そっと小さくため息を吐いた。
住民対応、書類整理、会議資料づくり――仕事は多いが、難しくはない。
「しっかりしてるね」「真面目だよね」とよく言われる。
でもそれは、“そう振る舞ってるだけ”だ。

(ほんとは、何もないんだよな、俺……)

昼休み。弁当を食べながら同僚が笑っている。
モッティは笑顔で相槌を打ちつつも、心の奥ではぽっかりと穴が開いているようだった。

夕方。
こももの「兄ちゃん、今日スクワット教えてくれるんでしょ?」という朝の言葉を思い出し、モッティは少し早めに退勤した。
ジムの更衣室でトレーニングウェアに着替え、鏡を見る。
丸っこい体つきが、ほんの少しだけ引き締まった気もする。

(……父さんも、こんなだったのかな)

思い出すのは、小さい頃の記憶。
がっしりした背中。無口で頼れる父。
モッティは、その背中にずっと憧れていた。

ジムのフロア。
スクワットラックの前に立ち、息を吐いてバーベルを担ぐ。
けれど、今日は重い。全身がだるい。仕事の疲れが残っていた。

「今、崩れてるね」

画像

背後から岡田氏の声がした。
強くも、責めるようでもない。
けれど、確かに刺さる言葉だった。

「……すみません」

返した声が小さくなったのは、悔しかったからだ。
頑張っても、追いつけない。
ちゃんとしてる“ように”見せるのに、どれだけ力が要るのか。
それすら誰にも伝えられない。

岡田氏は、少し間を置いてから口を開いた。

「謝る必要なんて、ないよ。崩れることも、立ち止まることも、悪いことじゃない。俺だってそうさ。毎日、理想の指導者になろうとしてるけど、思う通りにできない日なんて、山ほどあるよ」

モッティは目を伏せたまま、黙って聞いていた。

「だけど、続ける。自分が諦めたら、誰かの“もう一歩”を支えられなくなるから」

その言葉には、熱さも力強さもない。
けれど、真ん中に芯が通っていた。
岡田氏自身が、ずっと迷いながらも歩いてきた人間なのだということが、静かに伝わってきた。

* * *

夜、自宅。
「兄ちゃん、いち、にー、って教えて!」
こももが笑顔でスクワットの真似をしている。
モッティは笑って応じた。「そうそう、上手だな」

本当は、眠くて、疲れてて、何もしたくなかった。
でも、やめたくはなかった。
この時間だけは、自分にしか守れないものだから。

こももが眠ったあと、ベッドに潜っても、今度は眠れなかった。
天井を見つめながら、思う。

(……ぼくって、何なんだろう)

ちゃんとした公務員。
頼れる兄。
優しいって言われる性格。

でも――

(中身が空っぽなんだ。誰かに見せる“いい人”だけで、俺の中には何もない)

そう思った瞬間、胸がぎゅっと苦しくなった。
何かになりたくて、ジムに通っているのかもしれない。
でも、なれる気がしない。
岡田さんのように強くも、ルルのようにまっすぐでも、ボニーのような包み込む暖かさもない。

「ぼくは、ほんとに、何者なんだろうな……」

その呟きは誰にも届かない。
けれど、自分にだけは、ちゃんと聞こえていた。

静かな夜が、ゆっくりと更けていく。
それでも、モッティは布団の中で、何かを探していた。
まだ名前のつかない、“自分”というかけらを――

つづく

第二章
第3話「ボニーの苦悩~思い出と向き合う胸の奥~」

マンガ新約HOPPY物語