HOPPYの仲間たち ~ジムで見つけた僕の居場所~
第18話「鏡を見たくなかった日」
「こんにちは〜…」
ジムのドアが開いて、モッティの後ろから、
こももがひょこっと顔をのぞかせた。
モッティに似て、ぽやっとした表情。
だけど、目だけは真剣で、少しだけ緊張していた。
「今日はこももが見学に来ました〜」
「…わたし、はじめてで」
ボニーとルルが優しく迎え、
岡田氏が「無理せず、見てるだけでもいいよ」と声をかける。
ジムの空気が、こももをやわらかく包んだ。
そのとき、フクロカさんが静かに現れた。
「こんにちは。あなたが…こももちゃん?」
「……はい」
フクロカさんがそっと手を差し出すと、
こももは一瞬驚いたあと、ほっとしたように握り返した。
トレーニング器具の使い方を聞いたり、軽く体を動かしてみたり。
こももはモッティの後ろに隠れるようにして、
でも、目はずっと前を見ていた。
そんなときだった。
「……あの……………」
ポツリとつぶやいたこももに、
フクロカさんはうなずいた。
「少し、静かな場所に行こうか」
ふたりは、奥にあるカウンセリング室へと向かった。
薄明かりの室内に、ふわっと柔らかい椅子。

ドアが閉まると、こももはようやく深く息を吐いた。
「…なんでここに来たのかって、たぶん、みんな思ってると思うんです」
「うん。聞いてもいい?」
こももは、少しの間をおいて話し出した。
「わたし、鏡が苦手なんです」
「写真とか、動画とか……自分が映るの、すごくイヤで」
「前に、友達に“なんか丸い〜”って笑われて。
ほんとは笑ってなかったかもしれないけど、
そう聞こえちゃって。ずっと」
「でも、テレビで梅島奈々子さんが、
“スクワットがわたしの自信の源です”って言ってて」
「それで……わたしも、ちょっとだけ変われたらって、思って」
フクロカさんは何も言わず、こももの話を聞いていた。
言葉じゃなく、まるごと受け止めるように。
「お兄ちゃん、ほんとにかっこよくなってて。
でも…その分、わたしは全然変われてないって、
勝手に比べちゃって」
しばらくの沈黙のあと。
フクロカさんは、ぽつりと言った。
「鏡って、自分を映すためだけのものじゃないのかもね」
「“これからの自分”が、ちょっとずつ見えてくるためのものかも」
こももは、小さくうなずいた。
そして、ゆっくり立ち上がって言った。
「今日は……見学だけのつもりだったけど、
スクワット、やってみてもいいですか?」
今日のひとこと
「ほんの少し、鏡を見てみたくなる。そんな日が、きっと始まり。」
次回 第19話 「ルル × スクワット編」