HOPPYの仲間たち ~ジムで見つけた僕の居場所~
第29話「それは、ここだけの話」
翌日のHOPPY。
ジムの空気はいつもと同じようで、でもどこかふわりと張りつめていた。
ベンチで汗を拭いていたモッティが、ぽつりとつぶやく。
「……昨日のゴリラーマンさん、びっくりしてたよね」
「まさかフクロカさんが、軍人だったなんてなあ……」
ボニーがダンベルを握り直しながら、目を見開いたまま言った。
「いや、兵士っていうか……なんか、伝説みたいな扱いだったブーよ」
「『OWL of Delta-9』って、すごいコードネームだブー……」
二人の声はいつになく小さくて、敬意が混じっていた。
一方、奥のカウンターではフクロカさんが静かに記録をまとめていた。
その様子を見ながら、岡田氏がそっと隣に立つ。
「……昨日は驚きましたよ」
「まさか、見つかるとは思ってなかったけれど……。ゴリラーマンは当時の従軍整備兵だったみたい」
岡田氏は笑った。
「僕は、あなたが元兵士ってことだけは知ってました。でも、まさかあんなコードネームがついてたとは……正直、想像以上でした」
フクロカさんは少し照れたように目を細める。
「昔のことよ。いまは、ここでみんなの話を聞いて、
時々スクワットするくらいが、ちょうどいいわ」
「それがHOPPYです」
岡田氏も静かに微笑んだ。
その後、モッティとボニーが何かを言いたげに岡田氏に近づいてくる。
「ねえ、岡田さん……フクロカさん、すごい人だったんだね」
「うん。でもね、フクロカさんがすごいのは、
“すごいことを誰にも押しつけない”ところなんじゃないかな」
岡田氏のその言葉に、ボニーが頷く。
「……だから、ますます、すごいブーな」
夕方、誰もいないストレッチスペースで、
フクロカさんがひとり、スクワットをしていた。
その姿を、奥からそっと見守るモッティとボニー。
「……あのフォーム、迷いがないね」
「……でも、なんか、どこか遠くを見てるようだったブー」
その言葉に、モッティは少しだけ寂しそうな表情を見せた。
今日のひとこと
背中で語る人の強さは、言葉より深く届く。
次回 第30話 「記録ノートの端っこ」