HOPPYの仲間たち ~ジムで見つけた僕の居場所~
第30話「記録ノートの端っこ」
ジムに流れる空気は、いつも通り穏やかだった。
けれどその静けさのなかに、ほんの少し、残る余韻があった。
奥のカウンターで、フクロカさんが記録ノートを開いていた。
この場所で過ごす仲間たちの変化や言葉を、静かに綴ってきた、小さな記録。
ノートのあるページには、数日前の夜に書き加えた走り書きが残っている。
「ルルくん、今日で一区切り。でも、これは終わりじゃない」
「帰ってくる場所は、まだここにある」
(※第25話「“その日”から、何かが変わった」より)
そのときのルルの表情が、フクロカさんの脳裏に浮かんだ。
まっすぐで、静かで、どこか寂しさを帯びた目。
ページをめくると、岡田氏から後で聞いたという、ルルの言葉が書き添えられていた。
「ボク、自分では頑張ってるつもりでした。
でも、ここの優しさに慣れすぎて、
“頑張ってるように見せてるだけかも”って思うようになって」
「誰も責めてないのに、勝手にしんどくなって。
だから……違う空気に身を置いてみたくなりました」
(※同じく第25話より)
その言葉に目を通しながら、フクロカさんは静かにうなずいた。
自分を見つめ直すために、自分の足で一歩を踏み出す――
その決断は、きっと彼にしかできなかったこと。
ページを閉じかけたとき、ふと最初の記録が目に入った。
そこには、モッティがHOPPYに初めて来た日のメモがあった。
「なんで来たの?」
モッティは、少し照れくさそうに笑って、
「理由は…ないこともないけど、今はナイショ」って言った。
(※第1話「もじもじマーモット ジムへ行く」より)
フクロカさんは少し笑って、当時の自分の書き込みを見直した。
“言えない理由があるのかもしれない”と書いた一文に、そっと線を引き、
代わりに小さな文字で書き加える。
「“ナイショ”には、話したくないじゃなくて、守りたい何かがある」
「言葉にしない強さも、ちゃんとある」
誰もが言葉にできるわけじゃない。
でも、誰かが見ていてくれることで、
その“ナイショ”も、いつか意味を持つ日が来る。
ページを閉じる音が、静かなジムにやさしく響いた。
今日のひとこと
「話せるようになるまで待ってくれる人がいると、心はほどけていく」
次回 第31話「ゴリラーマンとアイアンヘル」
あの大きな背中が、何かを語り始める。
IRON HELLに交わる影、そして彼の意外な過去とは――