HOPPYの仲間たち ~ジムで見つけた僕の居場所~
第31話「ゴリラーマンとアイアンヘル」
それは、ふたたび訪れた偶然か。
あるいは、彼にとっても“はじまり”だったのかもしれない。
夕暮れのHOPPY。
トレーニングの熱気が一段落した頃、ジムの扉がそっと開いた。
現れたのは、大きな身体を持て余すように立つ男――先日突然現れた“あのアメリカ人”。
「……こんばんは。マタ、来タ」
「……ゴリラーマンさん」
岡田氏が微笑む。
奥で記録をつけていたフクロカも、静かに顔を上げた。
「先日はどうも。今日は何か、用が?」
ゴリラーマンは少し言葉に詰まりながら、片言の日本語で答えた。
「コノ、近ク。ワタシ、働イテル。新シイ、ジム。IRON HELL」
一瞬、場の空気がぴりつく。
「……先週、ここのマエ通ッタ。入ッテ、見タ。マサカ、アナタ――OWL of Delta-9、イルト思ワナカッタ」
「もうその呼び名を知ってる人なんて、いないと思ってたわ」
フクロカは肩をすくめながら、ほんの少しだけ、懐かしそうに目を細めた。
「昔のワタシ、シッテル。怖カッタ。冷静。完璧」
「兵士ハ、強クナケレバ、死ヌ。優シサ、ジャ、守レナイ」
「でも…」
ゴリラーマンは、迷うように視線を泳がせた。
「今日、チョット話シタカッタ。ルル?元気ソウ、ダケド……少シ、心配ナンダ」
岡田氏とフクロカが目を合わせる。
「ルルくんのこと、知っているんですね」
「アイアンヘル。最近、来タ。トレーニング、真面目。ダケド……トテモ、“自分ニ集中”シテイル」
その言葉に、岡田氏はゆっくりとうなずいた。
「彼は、いろいろ考えたいんだと思います。でも、きっと大丈夫。きみがそう思ってくれるなら、なおさら」
ゴリラーマンはしばらく黙ったまま、HOPPYの空間を見渡した。
「IRON HELL……強クナル。ダケド、HOPPY……空気ガ、違ウ。
ココニイル、ヒトタチ。言葉少ナイケド……ナンカ、温カイ」
フクロカが小さく微笑む。
「あなたの居場所がどこであれ、大事なのは、誰を大切に思うかよ」
「……アリガトウ」
ゴリラーマンは、少し不器用な笑顔を見せて、ジムをあとにした。
その背中を見送りながら、岡田氏がぽつりとつぶやく。
「彼も、たぶん……なにかを探してる」
今日のひとこと
強くなる場所は人それぞれ。でも、心が揺れるときは、たいてい誰かを思っている。
次回 第32話 「ルル、どこか遠くを見る」
アイアンヘルで黙々とトレーニングを重ねるルル。
彼の胸にあるのは、勝ちたいという欲望?
それとも、何かから逃げたいという焦燥――?