第12話 「これ、僕に向いてるの?」
「ふぅ……」
モッティがスクワットラックの前で、ゆっくりと立ち上がる。
動きはもう慣れてきたはず――でも、どこかぎこちない。
「ねえモッティ、最近スクワットやってるとき、ちょっと無理してない?」
BONNYが水を飲みながら、ぽつりと声をかけた。
「え……そんなことない、と思うけど……ちょっと……うん、実は、うまくいってる気がしないんだ」
モッティははにかむように笑った。
「フォームは覚えたし、動きもできてる。でも、なんか……毎回しんどいっていうか……」
そのとき、BONNYがふとモッティの姿勢を見て言った。
「……でもさ、モッティって、足が……なんか短めでさ」
「えっ!?それ、けなしてる?」
「ちがうちがう!でも腕、長いよね?」
「う、うん……それは……マーモットだから……」
「なんかさ、それって……スクワットより、デッドリフト向いてる体型なんじゃない?」
「……え?」
BONNYの一言に、モッティは目を丸くする。
「おや、いいところに目をつけたね」
そこに岡田氏が現れた。タオルを肩にかけ、穏やかな笑みを浮かべている。
「モッティ、君の体型は――実は、デッドリフトにかなり向いてるよ」
「ほんとに……?」
「短い足と長めの腕。それってね、床から重いものを引き上げるには、とても有利なんだ。
可動域が狭くて済む分、効率よく力を伝えられる」
モッティは目をぱちぱちと瞬かせた。
「スクワットはね、苦手な人も多い。でもそれは“合ってない”ってだけの場合もある。
無理して得意にならなくてもいい。自分の体に合った種目を見つけること、それが大事だよ」
「……そんなふうに考えたこと、なかったなぁ」
「今日、軽い重量でいいから、一度やってみようか?」
モッティはゆっくりうなずいた。
「うん。やってみたい……かも」
BONNYがにこっと笑った。
「ほらね、僕の目、けっこう当たるでしょ?」
「うん……BONNYくん、ありがとね。なんだか、ちょっと自信出てきたよ」
モッティは、バーベルの前に立った。
スクワットとは違う感覚に、胸の奥が少しだけ高鳴っていた。

今日のひとこと
「苦手を乗り越えることだけが、成長じゃない。
君に合う道が、ちゃんとある。」
次回 第13話 「僕がトレーナーになった理由」