~ジムで見つけた僕の居場所~ 第17話「壊れたベンチと、あの気配」
朝のHOPPYジム。
いつも通り、ルルはスクワットラックに向かっていた。
ふと、ベンチの横を通ったとき、違和感がよぎった。
「……あれ?なんか、歪んでる?」
座ってみると、微かに傾いている。
ギシ、という音。ほんの少し、だけど確かに。
ルルはベンチの裏側をのぞきこんだ。
「ボルト、緩んでる……っていうか、曲がってる?」
そのとき、ボニーが後ろからやって来た。
「どうしたブー? 今日はスクワットじゃないのかブー?」
「うん、ちょっと気になって」
LULUは立ち上がり、ラックのセーフティバーに手を置いた。
「それに、さっきからラックの高さも……僕が使うときより、だいぶ高くなってる」

「それはよくあるんじゃないブー?」
「ううん。岡田さんはいつもこの高さに戻してくれるし、昨日最後に使ってたのはたぶんモッティ。
でもこの高さ、絶対もっと背の高い人のセッティングだよ」
ボニーが首をかしげた。
「でっかいやつ、来たってことブー?」
「たぶんね。しかも……相当重たい人。ベンチの歪み、普通の体重じゃこうならないと思う」
その言葉に、モッティも顔を出した。
「……それって、まさか……」
ジムの中に、ふっと静けさが広がった。
「うそ……伝説の、あの人……?」
「ここに? 昨日の夜? 本当に?」
「会いたかったブー……!」
みんながざわめき始める。
確かな証拠は、どこにもない。けれど、
“そうかもしれない”という興奮が、静かに胸を騒がせていた。
「ちくしょー……その時間、僕いたのに!奥で音楽聴いてたー!」
「ボク、床掃除してたブー!声かけてほしかったブー!」
その様子を、ジムの隅で見ていた岡田氏とフクロカさん。
岡田氏は、何も言わずに、そっと微笑んだ。
フクロカさんもまた、目を細めて空を見上げる。
言葉にしないまま、
ふたりだけは、何かを知っているようだった。
今日のひとこと
「会えなかったのに、確かに“そこにいた”と感じられる人がいる。」
次回 第18話 「鏡を見たくなかった日」