HOPPYの仲間たち ~ジムで見つけた僕の居場所~
第21話「岡田氏のパーソナル ボニー編②」
「ふっ……んん……よしっと」
BONNYはベンチ台から身を起こし、
タオルで額の汗をぬぐった。
ベンチプレスの重量は、最近ずっと横ばいだった。
身体は変わってきた。フォームも崩れてない。
でも、“伸びてる感覚”がない。
それが、ずっと胸に引っかかっていた。
その様子を見ていた岡田氏が声をかける。
「調子どう?」
BONNYはタオルをたたみながら、ぽつりと答えた。
「……最近、停滞してる気がするブー」
岡田氏はうなずいて、言った。
「じゃあ今日は、“感覚の確認”をしてみようか」
BONNYがうなずくと、岡田氏は静かに言葉を重ねる。
「足をベンチに乗せて、足の力を抜いてみよう。
今日は“上半身だけで受ける”感覚を意識してみて」
BONNYはゆっくりとベンチに仰向けになった。
そして、両足を持ち上げ、膝を軽く曲げて、
ベンチの上にそっと乗せた。

その体勢は、少し不安定で、身体の感覚に一気に意識が向いた。
バーベルをラックから外し、
胸の直前までゆっくりと下ろしていく。
「……っ!」
バーが胸に近づいたその瞬間、
重さが“腕じゃなくて、胸に落ちた”感覚があった。
背中からも力が地面に流れていくのがわかる。
「……!」
そのまま、反発するように、ゆっくりと押し返す。
BONNYはバーをラックに戻してから、
目を丸くして、ぽつりとつぶやいた。
「さっきより、腕がつらくなかったブー……」
岡田氏が、にっこりと微笑む。
「それでいい。
重さを受けるのは、骨格と背中と胸。
“腕で押す”だけだと、伸びないんだ」
「力を入れるんじゃなく、
“いらない力を抜く”ことも、強くなるってことだよ」
BONNYは、少し間を置いて言った。
「……強くなるって、力まなくていいってことなのかもブー」
岡田氏は静かにうなずいた。
今日のひとこと
「抜くことで届く力も、ある。」
次回 第22話 「黒い紙が風に舞った」