HOPPYの仲間たち ~ジムで見つけた僕の居場所~
第23話「あっちのジム、すごいらしいね」
「アイアンヘル、もう行った?」
誰かのつぶやきが、ジムの空気をかすかに揺らした。
BONNYがプレートをラックに戻す手を止める。
LULUは、伸ばしかけた脚を静かに引っ込めた。
「またその話か……」
BONNYがぼそっと言った。
LULUはスマホを取り出し、画面を静かにスワイプする。
黒を基調としたジムの写真、まばゆい照明、汗を飛ばしながら追い込む人々の動画。

「……すごいですね。
本気の人って、ああいうとこに行くのかなって、ちょっと思ったりします」
LULUの声に、BONNYが腕を組む。
「見た目は確かにキマってるブーね。
だけど“空気”が違いすぎる」
しばしの沈黙の後、モッティがベンチから顔をあげた。
「……僕、昨日、近くまで行きました。アイアンヘル」
「えっ!?」
LULUとBONNYが同時に振り返る。
「見学に行ったんですか?」
「いや、入口の前まで。
実はちょっと、どんな感じなのか気になってて……」
モッティはタオルで汗をぬぐいながら、ゆっくり話し出す。
「前まで行ったら、中から声が聞こえてきたんです。
“あと三回!” “負けるな!” “まだできる!”
……すごい声量で。全員、追い込まれてるみたいでした」
「……入る気、なくなりました」

「僕、限界まで頑張るっていうのが苦手なんです。
怖いというか、そこまでやると次の日、もうやりたくなくなっちゃう」
BONNYが静かにうなずく。
「オレも昔、そういうジムにいたブー。
でも、続かなかった。
怒鳴られて、鼓舞されて、火はつくかもしれないけど……
燃え尽きるのも早かったブーよ」
LULUが、少し考えるように目を伏せる。
「岡田さん、前に言ってましたよね。
“あと2回できるな、ってところでやめると、次も頑張れる”って」
BONNYがニッと笑う。
「岡田氏は“明日も来たいって思える力”が一番大事だって、よく言ってるブーね」
モッティも笑った。
「……やっぱり、僕にはこっちの空気のほうが合ってるみたいです」
外では、今日も風に舞う黒いチラシ。
けれど、HOPPYの中には、
追い込む声ではなく、続けたいと思える静かな余白が流れていた。
今日のひとこと
「明日また来たくなる場所。それが、本当に強くなれる場所かもしれない。」
次回 第24話 「正しさのすれちがい」