HOPPYの仲間たち ~ジムで見つけた僕の居場所~
第15話「うまくできるのに、なんか違う」
夕方のHOPPYジム。
スクワットラックの前で、LULUが一人静かに立っていた。
姿勢よく、ゆっくり沈んで、丁寧に立ち上がる。
一連の動作は、まるで機械のように正確だった。
それを、岡田氏が少し離れた場所から見ていた。
「……LULU、最近スクワットの動きに迷いがあるね」
声をかけられ、LULUは少しだけ表情を曇らせた。
「……気づいてたんですね。なんだか、どこに向かってるのか、わからなくなってて」
ラックにバーベルを戻し、LULUは静かに息を吐く。
「スクワットは嫌いじゃない。でも、僕……これを何のためにやってるんだろうって、ふと思って」
岡田氏は頷いた。
「LULUって、昔、何か競技やってた?」
少し驚いたようにLULUが目を開いた。
「……陸上です。短距離と高跳び。リレーではアンカーを」
「なるほど。それで、フォームが自然ときれいなんだ」
しばらく沈黙が流れた後、岡田氏がやさしい声で続けた。
「……走るのは、嫌いになった?」
その言葉に、LULUの指がぴくりと動いた。
「……わかりません。好きだったはずなんですけど……最後の大会で、バトンミスして。
自分のせいでチームが負けて、それ以来……走るの、やめました」
岡田氏はゆっくり歩み寄り、隣に並んでラックを見つめる。
「スクワットって、“走らなくなった脚”が、もう一度動き出すための練習にもなるんだよ」
「……え?」
「速く走るための脚、じゃなくて。
“また走ってみよう”と思える心の脚、っていうかね」
LULUは、少しだけ視線を落とした。

「……それ、ずるいです。そんなこと言われたら、また走りたくなるじゃないですか」
岡田氏は、いつものやさしい笑顔を浮かべて、肩を軽くたたいた。
「走ってもいいんだよ、LULU。もう、罰じゃないんだから」
その言葉を、胸の奥でゆっくり噛みしめながら、
LULUはもう一度、静かにスクワットを始めた。
今日のひとこと
「過去が止めていた心が、少しずつ、動き出す。」
次回 第16話 「話すつもりはなかったけど」