HOPPYの仲間たち
~ジムで見つけた僕の居場所~
第34話「開いていたドア」
言い訳は考えていた。
言葉も選んでいた。
でも、いざ目の前に立つと――全部、出てこなかった。
夜のHOPPY。
外はまだ肌寒く、ルルは一歩引いた位置でジムを見つめていた。
中ではいつものように岡田氏が誰かと話していて、モッティとボニーの声も微かに聞こえる。
笑っている。
それが、なぜだか少し遠く感じた。
「今さら戻って、なんて言えばいいんだろう」
ルルは立ち尽くしたまま、耳を澄ませる。
「どうして戻ってきたの?」って聞かれたら――
ちゃんと答えられる自信はなかった。
だけど――
「……ルル?」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、ボニーが手にタオルを持って立っていた。
驚いた顔。でも、それ以上に、ホッとした顔だった。
「……べつに、なんとなく通っただけだよ」
言い訳のように言うルルに、ボニーは笑って言った。
「そっか。じゃあ、ちょっと寄ってく?」
それだけだった。
問い詰めるわけでも、感動的な再会でもなくて――
まるで、いつもの帰り道でばったり会ったみたいに。
ルルはうなずいて、一歩だけ足を前に出す。
そのとき、中の自動ドアが開いた。
中にいたモッティがこちらを見ていて、
岡田氏もフクロカも、特に驚いた様子はなかった。
「おかえり」なんて言葉は、誰も口にしなかったけれど――
それはもう、とっくに言われていたような気がした。
ルルの手が、ドアの端に触れる。
あたたかい空気が、指先から肩へ、胸へと伝わってくる。
「……ただいま」
心の中で、ようやくその言葉をつぶやけた。
今日のひとこと
戻る場所があるって、思い出せるだけで、強くなれる。
次回 第35話「名前を呼ばれる前に」