HOPPYの仲間たち
~ジムで見つけた僕の居場所~
第35話「名前を呼ばれる前に」
ただ、そこにいるだけ。
何も話さなくても――それで許される場所が、ここだった。
ルルがHOPPYに戻ってから、数日が経った。
誰も「戻ってきたの?」とは聞かなかった。
いつの間にか、そこにいることが自然になっていた。
スクワットラックの横に立っていても、
ベンチに座ってストレッチをしていても、
「前と同じルル」がそこにいるだけだった。
でも――中身は、少しだけちがっていた。
「ここでは、うまく見せようとしなくていいんだな」
無理に言い訳を探す必要も、
誰かに認めてもらうための努力もしなくてよかった。
ある日、ジムに入ってきたばかりのルルを見て、
岡田氏が小さく手を挙げて言った。
「ルル、今日はデッドリフトやるかい?」
それは、何気ない呼びかけだった。
でもルルは、少し驚いたような顔をしたあと、ゆっくりと笑った。
「……うん、久しぶりにやってみようかな」
“ルル”という名前を、誰かに呼ばれる――
それが、こんなに温かくて、うれしいなんて思わなかった。
奥でフクロカさんがノートをめくっている。
「ルルくん、今日は名前を呼ばれて、ちゃんと返事していた」
ページの端っこに、そう書き加えられた。
今日のひとこと
居場所は、誰かに名前を呼ばれて、はじめて実感できるのかもしれない。
次回 第36話「背中を向けるのは、もう一度前を向くため」