札幌中央区のセミパーソナルジム
hoppy_logo_header

札幌中央区のセミパーソナルジム

筋トレ倶楽部Hoppy

ようこそHOPPYジムへ ──その扉の奥には、物語がある 3-2

Hoppyの物語

2026年4月5日

第2話「ルルの決断~理想と現実のはざまで~」

――挑戦する価値があるのか、それとも……――

街灯が少しずつ点り始める頃、ルルはHOPPYの裏手を抜けて帰路についていた。
昼間の熱がまだ残るアスファルト。汗が乾ききらぬまま、足だけが惰性で動いている。

と、その角を曲がった先――
電柱に、あのポスターが貼られていた。
赤と黒。大きな文字で《IRON HELL 新規会員募集》。その下には、腕を組んだクロノスの姿。
今日だけで、すでに何枚目だろう。
駅前、バス停、コンビニ前――街のあちこちに同じものが貼られている。
広告費を惜しみなくかけた、圧のある宣伝。
そして、この道にもまた、ひときわ目立つように掲げられていた。

その前で足を止めた瞬間――

「……よう」

暗がりの中から姿を現したのは、黒いスーツの男、クロノスだった。

「来ると思ってたよ。お前がいつも通る道だって聞いたからな」
その目は笑っていなかった。鋭く、じっとルルを射抜くように見据えている。

「興味がありそうだな。見てて思ったよ」
ゆっくりと歩み寄りながら、胸ポケットから会員証を取り出す。
《IRON HELL》の文字が、路地の街灯に反射して冷たく光った。

「うちで鍛えれば、もっと“上”を狙える。お前なら……な」

その言葉に、ルルは目を伏せる。
言葉が出ない。
頭の中で、かつての記憶が音もなく甦る。
――大学時代。
全国大会を目指して、ただがむしゃらに走っていた日々。
自分を追い込みすぎて、壊れかけた体と心。
それでも、何も残せなかった。

そう、逃げてきたのだ。
それを、また突きつけられた。

そのとき、白い影が視界に入った。
白シャツにジャージ姿――岡田氏が、静かに二人のそばへと歩いてくる。

「このあいだの視察の件か……なるほどな」

クロノスとしばし無言の視線を交わし、それから岡田氏はルルの横へと並ぶように立った。
その声が、少しだけ柔らかくなる。

「ルル。お前は、ここで何を得たいんだ?」

静かな問いかけに、ルルはゆっくりと顔を上げた。
胸の奥から、しぼり出すように言葉を紡ぐ。

「……もっと、強くなりたいんだ。過去を……なかったことにするんじゃなくて、ちゃんと……」

それ以上は、言葉にできなかった。

岡田氏は短く頷いた。
しかし、クロノスは鼻で笑い、スーツの内側から折りたたんだビラを差し出す。

「理屈はどうでもいい。うちなら現実が変わる。時間は明日までだ」

それだけを言い残し、踵を返して闇の中へと消えていった。

静かになった路地に、風の音だけが残る。
ルルはビラを見つめたまま立ち尽くしていた。
岡田氏は少しだけルルを見て、歩き出す。

その背中が数歩進んだところで、ふと振り返り、ひと言だけ残した。

「……どっちを選んでもいい。ただな、ルル、
 お前が“自分に嘘をつかないこと”――それが一番、大事な筋トレだ」

そしてそのまま、背を向けて歩き去った。

ルルはしばらく動けずにいたが、やがてビラを握りしめてジムの前まで戻る。
誰もいないガラスの扉に、自分の影が映る。

画像

「……俺の道を、決めるんだ……」

小さな声が、夜の静けさに溶けていった。

つづく

第三章
第3話「静かな誘い、揺れる心」

マンガ新約HOPPY物語