札幌中央区のセミパーソナルジム
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筋トレ倶楽部Hoppy

ようこそHOPPYジムへ ──その扉の奥には、物語がある 3-3

Hoppyの物語

2026年4月12日

第3話「静かな誘い、揺れる心」

――差し出された手は、なにを奪うのか――

午後、日差しがやわらかく傾き始める頃。
モッティは、いつものようにHOPPYへ向かう坂道を登っていた。

「すみません、ちょっとだけ」

振り向くと、黒いトレーニングウェア姿の男が立っていた。
肩口には控えめに《IRON HELL》のロゴ。
名札はないが、落ち着いた身のこなしに、ただ者ではない空気が漂っている。

「きみ、ちょっとがたい、いいね」
「姿勢もきれいだ。どこで鍛えてるの?」

モッティは少し間を置いてから、警戒をにじませながら返す。

「……近くのジムで」

男はにこりと笑い、名刺を取り出した。
《IRON HELL アシスタントコーチ・亀山》

「もしよければ、うちでトレーナーやってみないか?
君みたいな人材、正直なかなかいないんだよ」
「報酬も相談に乗るし……妹さんとの時間も取れるように配慮する。こももちゃん、だっけ?」

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モッティの目が大きく見開かれた。

「……なんで、妹のこと……」

背筋が凍る。知らない人間から突然、家族の名前を出されるという異様さ。
だがその一方で――(僕のこと、本気で見てくれてる?)という感情が、かすかに揺れた。
だが、すぐに考え直す。(……だからって、ここで流されたらいけない)

「……僕は……(まず、こももに約束したことを守りたい。それが終わったら)……考えておきます……」

名刺を受け取らず、口を結んで一歩引いた。
しかし亀山は笑みを崩さず、軽く近づいて、そっとモッティの手に名刺を握らせた。

「じゃあ、それまでは俺の連絡先、覚えておいてくれ」

それだけ言い残し、路地の向こうへと消えていった。

――同じ時刻、別の道。
ボニーもまた、ジムへ向かっていた。

「こんにちは。あの……失礼ですが、HOPPYの方ですよね?」

背後から声をかけてきたのは、明るく落ち着いた女性だった。
ベージュのジャケットに黒いパンツ。肩に小さく《IRON HELL》の刺繍。

「私、IRON HELLのトレーナーの兎野(うさぎの)と申します」
「先日、ジムの前を通りかかったとき、ウィンドウ越しにあなたのトレーニングを拝見しました」
「とても綺麗なフォームで……特にベンチ。あれは印象に残りました」

ボニーは驚いたように眉を上げた。

「よろしければ、私たちのジムで“高齢者向けのトレーニング指導”をしてみませんか?
高報酬ですし、副業でも大丈夫。あなたのような方をずっと探していました」

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兎野はタブレットを取り出し、勤務条件を簡潔に提示する。
ボニーはしばらく画面を見つめたあと、目を伏せて言った。

「……考えておきます」

――数分後。HOPPYの玄関前。
ほぼ同時に、モッティとボニーが入口前に立った。
ふと見ると、お互いの手に名刺が握られていた。

一瞬、視線が交わる。

「……お前もか」

そう言いたげな表情を交わすが、二人とも口には出さなかった。
ただ、小さく息を吐き、ジムの扉をくぐる。

その夜。
ルルが帰ったあとの休憩スペース。
水を飲みながら腰を下ろすモッティとボニー。静かな時間が流れていた。

「……あの人たち、僕らがHOPPYにいる理由、わかってないよな」
モッティのひと言に、ボニーが静かに応える。

「俺はね……“言わなくても伝わる人”に、やっと出会えたんだ」
「岡田さんって、教えるんじゃなくて“信じてくれる”って感じがするんだよ」
「それがどれだけありがたいか……あの人たちは、きっと知らない」

モッティは短くうなずいた。

「信じてくれるって、強くなりたいって思わせるよな」

二人の言葉は少なかったが、その沈黙は決して空白ではなかった。

――その頃。
照明の落ちたHOPPYの奥、事務室で。
フクロカは記録ノートを静かに閉じ、机の上に手を置いたまま、ぽつりとつぶやいた。

「……誰かが…… 仲間を奪われそうだわね」

その直後、玄関のドアが夜風にカタリと揺れた。
ジムの静けさに、その音だけが残った。

つづく

第三章
第4話「分かれ道~ルルの移籍とHOPPYの試練~」

マンガ新約HOPPY物語