HOPPYの仲間たち|~ジムで見つけた僕の居場所~
第2話「はじめてのスクワット記念日」
ジムに通い始めて一週間。モッティはまだ「空気を吸うだけトレーニング」から抜け出せずにいた。
(筋トレって、いきなり始めなくてもいいよね…。とりあえずジムに来てるだけでも、うん、えらい。)
そんな風に自分を納得させて、今日も入口近くでストレッチだけして帰ろうとしていた。その時、ベンチプレスでトレーニング中のブタのボニーが、モッティに声をかけてきた。

「モッティ、最初はみんな初心者ブー。焦らず自分のペースで進めればいいブー。」
ボニーの言葉は、モッティの心にじんわりと響いた。
(あのボニーさんでも、最初はそうだったのかな…。)
少しだけ、背中が押された気がした。
そのまま帰るつもりだった足が、なんとなく鏡の方へ向かう。鏡の前に立つ自分が、ちょっとよそ行きの顔に見えた。
「モッティさん、こんにちは。今日は調子どうですか?」
岡田トレーナーが、優しい笑顔で声をかけてくれた。相変わらず、安心する声。
「せっかくなので、今日はひとつ、スクワットやってみますか?」
「ぼ、ぼくが…スクワット…?」
「はい。ひとつだけ。立って、しゃがんで、立つ。それだけです。」
それだけ。 そう言われると、できる気がした。モッティは、ちいさくうなずいた。
足を肩幅に開いて、つま先を少し外向き。背すじを伸ばして、胸を張って、鏡の自分と目を合わせる。
(よし…いける。)
そろっと腰を落とした瞬間――足がぷるぷる震えた。変な顔になってる。鏡の中の自分が、それを笑ってる。

だけど、なんとか立ち上がった。成功だ。
「はい、スクワット1回、成功!」
岡田さんが本当に拍手してくれた。それだけで、胸がぎゅっとなった。
そのとき、ボニーの声が響いた。
「拍手ブー!人生初スクワット記念日だブー!」
ピンクのシャツのLULUが、そっとうなずいた。
「……まあ、悪くない。」

モッティは、ふふっと笑ってしまいそうになった。そして、ちょっとだけ目をそらして、小さな声で言った。
「……もう一回、やってみてもいいですか?」
今日のひとこと
「最初の一歩なんて、誰も覚えてない。でも、モッティにとっては、一生モノの“スクワット1回”だった。」
次回 第三話 「重さの向こうに、何があるブー?」