HOPPYの仲間たち
~ジムで見つけた僕の居場所~
第5話「話すって、こわい。でもちょっとだけ、楽になる」
その日、モッティはジムの隅っこでバランスボールに埋もれていた。
スクワットは週に一度。昨日やったから、今日はお休み。
…のはずだったのに、なぜか体がジムに来てしまった。
「やる気はないけど、帰るのももったいない」
そんな気持ちで、モッティはただぼーっとしていた。
「どうしたの?今日は動かない日?」
声がして、ふりかえると――そこにいたのはフクロカさんだった。
フクロウの姿をしたカウンセラー。ジムに時々現れては、誰かと静かに話している。
でも、モッティが声をかけられたのは、これが初めてだった。
「う、うん…ちょっと、動く気になれなくて…」
「そういう日、あるよね。ちょっとだけ座って話す?」
フクロカさんは、まるで“何も問題ないよ”という顔でベンチに腰かけた。
だからモッティも、自然と隣に座った。
沈黙が流れる。でも、それが居心地悪くなかった。
「モッティくんは、どうしてここに来るようになったの?」
フクロカさんの声は、とてもやわらかかった。
モッティはちょっと迷ったけど、ぽつぽつと話しはじめた。
「なんとなく…、自分のこと、変えたくて。
でも、何をどう変えたらいいのかわかんなくて。
ジムって、なんかちゃんとしてそうで……ぼくもちゃんとできる気がして」

「そっか」
その一言に、なぜか胸がじんわり熱くなった。
「でも実際は、ちゃんとなんて、できないよ。全然。
スクワット一回やって、すごい達成感あって。…それなのに、翌日は何もできなかったりして」
モッティは笑った。でも、どこか涙が混じりそうだった。
「モッティくんはね、それでも来てる。来れてる。
それって、自分をすごく大事にしてるってことだよ」
「え……ぼくが?」
フクロカさんは、にっこり笑った。
「ジムに来ることは、“自分をあきらめてない”っていう証拠。
あきらめてたら、きっともう来てない」
モッティは、ぽろっと小さく笑って、
「……話すって、こわいね。でも、ちょっとだけ、楽になるんだね」
って、つぶやいた。
フクロカさんは、それを聞いて何も言わなかった。
ただ、隣で羽をすこしだけ広げて、やさしくうなずいた。
今日のひとこと
「言葉にするたび、心がちょっとずつ動き出す。話すって、こわい。でも、ちょっとだけ、楽になる。」
第6話 「このフクロウ、なに者なの?」