札幌中央区のセミパーソナルジム
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筋トレ倶楽部Hoppy

ようこそHOPPYジムへ ──その扉の奥には、物語がある 4-2

Hoppyの物語

2026年5月3日

第2話「IRON HELLの苛烈~華やかさの裏側~」

「……今日から」

ルルは深呼吸ひとつ分の迷いを抱えながら、IRON HELLの大きなガラス扉を押し開けた。
耳に飛び込んできたのは、大音量のクラシック音楽。
高らかに鳴る金管、鋭い弦。空気ごと突き刺すような音だった。
頭上には無数の蛍光灯。ジムの床には赤や黒のマシンが整然と並び、どれもが光沢を帯びていた。まるで競技場のような、どこか非日常的な空間。

「ようこそ。ルルくん」

奥から現れたのはクロノスだった。
彼はにやりと笑い、両手を広げて拍手をする。

「今日から君も、ここで結果を出す側だ」

それは歓迎というより、“さあ、働け”という機械の指令のようだった。

****

新人歓迎セッションが始まった。
ルルはトップアスリートたちのデモンストレーションを目の当たりにする。
スクワット170kg、ベンチプレス120kg、デッドリフト210kg。
どの動きも洗練され、無駄がなく、そして速かった。

「ここでは毎月、5kgアップは当然。0.5秒縮めるのも“当たり前”。わかったな?」

インストラクターが平然と告げる。
ルルは喉を鳴らす。
数字が飛び交い、結果が絶対の空気に、体中がこわばっていくのを感じた。

フォームチェックが始まる。

「もっと速く!」「動きが甘い!」「全力でやれ!」

飛び交う声。音楽。マシンの稼働音。
ルルの頭の中はノイズで満たされていく。

自分の動きが、妙に雑に見えた。足元ばかり見てしまう。
「自分は本当に、ここにふさわしいのか?」

そんな思いが、脳裏にかすめた。

***

夜。
IRON HELLの寮に戻ったルルは、小さなベッドにうつ伏せになった。
自分の部屋は別に借りたままだ。
まだ迷いがあるので解約できないでいた。
IRON HELLには、期待をかけられたひとだけが入れる寮がある。
そこで暮らすように言われたのは嬉しいことであるはずなのに……
薄い毛布、まぶしい天井灯、壁の向こうから聞こえるトレーニングの音。

「……俺、本当にここで……やっていけるのかな……」

呟いても、誰も答えない。

***

同じ日の午後。
HOPPYの扉が開いた。

入ってきたのは、見上げるほどの長身の男性。
キャップを深くかぶり、大きなリュックを背負った筋骨隆々の外国人だった。

「Ah… gym here? Use… OK? Me, training…?」

突然の英語に、モッティとボニーが目を見合わせる。

「え?英語?わかる?」

「えーと……ユー、トレーニング、オーケー?」

まったく通じない。

そのとき、奥から静かに歩いてきた女性がいた。

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「Hi there. You can use the gym. Please fill out this form first.」

フクロカだった。流暢な英語と落ち着いた声。
その姿に、外国人男性の目が一瞬で変わった。

「……No way.」

彼はポケットから古びたスマホを取り出し、1枚の画像を見せる。

砂嵐の中、負傷兵を背負って歩く若き女性兵士の姿。

「Delta-9部隊……あの伝説の“オウル”。これ、あなたじゃ……?」

「You’re… the Owl of Delta-9… aren’t you…?」

岡田氏も固まり、ジム内が凍りついた。

「え?なに今の?“オウル”ってなに? フクロカさん……軍人だったの?」

フクロカは柔らかく微笑み、小さく頷いた。

「昔、ちょっと……。今は、静かに暮らしているの。……だからこのことは、誰にも言わないでくれるかしら?」

その瞬間——

「あっ!!」とボニーが叫ぶ。

「こいつ……あの時、電柱の前にいたやつだ!アイアンヘルのチラシ持ってた!」

「間違いない!あのときの筋肉の人!」モッティも叫ぶ。

一斉に視線が集まる。

ゴリラーマンは一瞬フリーズし——ついに流ちょうな日本語で叫んだ。

「ち、違うんです!スパイじゃなくて……僕はただ……」

「……あ」
言ってしまったと自覚し、帽子を取り、深々と頭を下げる。

「アイアンヘルの者です。ですが、敵ではありません。
僕はただ、ルルさんがいた場所を見てみたくて……」

場に少し緊張が走る。

モッティがボニーに小声でつぶやく。

「でも……なんか、嘘ついてるって感じじゃなかったよね?」

「うん、なんか……まじめそう。言葉も丁寧だったし」

「悪い人じゃないのかも………」

岡田氏が黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。

「きみは……、ルルのこと、気にしてくれてるんだな……」

ゴリラーマンははっとして顔を上げる。
その目は、まっすぐだった。

「はい。…ルルさんは、たぶん今、つらいと思います。仲間もいないし、誰かと話す余裕もない。……でも、踏ん張ってる。だから……」

言葉を詰まらせながらも、拳を強く握りしめていた。

岡田氏は一拍おいて、ゆっくりと頭を下げた。

「……もしよければ、これからも、ルルをよろしくお願いします」

ゴリラーマンは目を見開き、そしてはっきりと頭を下げた。

「はい。全力で、見守ります」

モッティも、ボニーも、すっと姿勢を正し、静かに頭を下げた。

「ルル、今きっと無理してると思うんだよね……」
「仲間って、こういうときこそ大事だしね」

この日から、フクロカさんのしていたことに、みんなが少しずつ気づきはじめた。
これまでは当たり前のように見過ごしていた小さな行動。
けれど目を向けてみれば、それは誰にも真似できないようなことばかりだった

——荷物が落ちそうになった会員の元へ、誰よりも早く気づいて駆け寄るフクロカ。
——小さな子どもが走って転びそうになったとき、まるで予知していたかのように手を差し出すフクロカ。
——トレーニング器具のわずかな音の違いだけで、不調を察知するフクロカ。

「……なんとなく、思っていたんだけど…説明ができなかったんだけど納得したよ。やっぱり、ただ者じゃなかったんだね……」

誰かがぽつりと漏らすと、自然と視線がフクロカへ向けられた。
その目には、驚きと、ほんの少しの敬意が宿っていた。

帰り際、ゴリラーマンはフクロカにそっと言った。

「あなたのこと、忘れません。俺も、変わりたいと思いました……オウル」

フクロカさんは静かに微笑んだ。

「私は今、“フクロカ”。それで充分よ。……いい風、吹いてるわね」

——あの時とは違う。とっても穏やかな風だ。

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つづく

第四章
第3話「支え合う絆~モッティとボニーの奮闘~」

マンガ新約HOPPY物語