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筋トレ倶楽部Hoppy

ようこそHOPPYジムへ ──その扉の奥には、物語がある 5-1

Hoppyの物語

2026年5月24日

第五章(最終章)絆と秘密の先にあるもの

第1話「ボニーの解放~赤いコップが紡ぐ絆~」

朝日が、薄いカーテン越しに差し込んでいた。
ボニーはテーブルに置いた赤い小さなコップを見つめながら、目を細める。

思い出したくて思い出すのではない。
静かな朝は、どうしてもあの日の記憶を引きずり出してくる。

「パパが見に来てくれるって、せんせいに言ったの!」
小さな手でコップを持ち、嬉しそうに笑っていたベニー。
運動会の前日、あの笑顔が、何よりも鮮やかに残っている。

あのとき、断れなかった仕事。
どうしても外せないって、自分に言い聞かせていたけれど、本当は――逃げたのかもしれない。話し合いから……そして今回も……

「……あのとき………」

呟いた声は、部屋の中に静かに吸い込まれていった。

* * *

それは数日前のことだった。
ルート配達の仕事で街を回っていたボニーは、偶然、保育園の前を通った。

昼下がり、門の前で小さな子どもたちが並び、ひとり、見覚えのある姿がいた。
少し背が伸びたような気がした。でも、すぐにわかった。

ベニーだった。

そのすぐ後ろに、彼女――チッチが現れる。
母としての顔をして、ベニーに手を伸ばす姿に、ボニーの足が止まりかけた。

声をかけようとした。けれど、足が一歩も動かなかった。

代わりに、ゆっくりとトラックのアクセルを踏み、走り去った。
バックミラーで、何度も振り返ってみていた。

* * *

その夜、HOPPYではデッドリフトの日だった。
器具の準備をしていたボニーの背後から、岡田氏の声がした。

「無理せず、少しずつでいいんだよ。重さは、自分で決めていい」

ボニーはしばらく沈黙していたが、ふと、タオルの中から小さな赤いコップを取り出した。
持ち歩いていたのは、単なる癖じゃない。
心のどこかで、これを見て自分を叱咤していたのかもしれない。

「……俺、娘にもう一度、ちゃんとした背中を見せたいんです」
「もう一度、自信を持てるように。ここで、鍛え直したい」

岡田氏は、ゆっくりとうなずいた。

何も聞かない。
彼はいつもそうだ。話さないのは、まだ心の中で消化できていないということ。
だから、岡田氏は深く立ち入らない。けれど、背中を押すことは決して忘れない。

「それなら、大丈夫だ。HOPPYは、そういう場所だから」

* * *

ジムの奥、カウンターの裏で記録ノートを閉じる音がした。
フクロカが、静かにページの端にこう書き残す。

――ボニーは、自分を許し、未来を抱きしめた。

その瞬間、ジムのドアがわずかに開き、夜の風が入り込む。
ベンチに置かれた赤い小さなコップが、ほんの少し揺れた。

それは、微かな風だったけれど。
ボニーの中に、確かな何かが動き始めていた。

* * *

数日後の午後。
ボニーは、保育園の門の向こうに広がる景色を、少し離れた場所から見つめていた。

今日はチッチの誕生日。
ふたりが帰るところを、ボニーは静かに待っていた。

(ベニーは、俺のこと覚えてるだろうか)
(チッチは……何て言うだろう。無視されるかもしれない)

不安が腹の底でじわじわと膨らむ。でも、それでも逃げたくなかった。
もう一度――きちんと向き合いたかった。過去ではなく、いまの自分で。

帰り道、偶然見つけた小さなケーキ屋。
ショーケースの中、丸くて色とりどりのフルーツがのったホールケーキが目に入った。

(あのとき……こんなふうに、二人のことだけを考えて何かを用意したことがあっただろうか)
今の自分の頭の中には、それしかなかった。
何を持っていけば、何をすれば、あの二人が少しでも笑ってくれるか――

保育園の門が開いた。
チッチがベニーの手を引いて出てくる。

その瞬間、ボニーは思わず足を踏み出した。

「チッチ。……誕生日、おめでとう」

チッチが驚いた顔で立ち止まった。
そして、見た。手に持ったケーキと、その向こうの――まっすぐこちらを見つめるボニーの目を。

「びっくりした……」
そう呟いた声には、ほんの少しだけ、笑いが混じっていた。

画像

ボニーはチッチにケーキを渡した。
「渡せてよかった」とでも言うように、力が抜けた顔だった。

でも――彼の視線は、終始ベニーに向けられていた。
話しかけることはできなかった。ただ、目で追っていた。

その様子に気づいたチッチの胸に、じんと何かが沁みた。
(……こんなにベニーのことを見てる…)

そして、ボニーは声をかけた。

「……また、会いに来てもいいか?」

チッチは少し迷いながらも、静かにうなずいた。

三人の間に風が通る。春先のやわらかい風。
少しだけ時間が、ほんの少しだけ巻き戻ったような感覚。

そして、別れたあと。
小さな手を握って歩きながら、ベニーがぽつりと口を開いた。

「……パパ?」

チッチは足を止めて、その顔を見た。
ベニーの瞳の奥に、かすかな記憶の光がゆれていた。

つづく

最終章
第2話「モッティの覚悟~兄妹の約束を超えて~」

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